その唇、林檎味-デキアイコウハイ。

*ありがちな朝、から

 結局学校最寄りの駅まで、只管口を動かし続ける未沙を放置しきった私。

 もう十一月、男女共々、濃いグレーのブレザーとなった二種類のみの制服の群れを、その鉄の箱は一息に吐き出す。

 未沙は再び、精一杯の背伸びで星丘 惺を探し出した。一言言わせてもらえるなら、絶対に見つかりっこない。……こんな、いつも通りの朝。

 既に小さな変化が起こっていることに、私は全く気づいていないのだけれど。


「だいぶタイツの人増えたねぇ」


 駅の改札を通過する辺りで、漸く話題が変わった。ここまで何と長かったことか。


 公立校の割には、うちの高校は制服が可愛い。それを理由の一つにこの学校を受験する人さえもいたりする。そんな学校だから、大きく羽目を外す人はいないとしても、きゃっきゃうふふとお花畑気味な人が多いのは事実。


「そうだね…私もタイツにしようかな」


 そろそろ足元も肌寒くなってきた頃。特に指定がある訳ではない黒のハイソックスもいいのだけど、寒さには敵わない。


「いいんじゃない?あたし明日からタイツ!」

「……明日日曜だけど」


 全く、もう少ししっかりして欲しい。ファミレス六連勤、漸く今日はラストの土曜日なのに、今日が金曜日だったらどうしすれば。

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