甘い恋の誘惑
そんな莉子をジッと見つめていると、莉子は眉を下げたままもう一度、あたしの元へと走ってきた。
Γアユ!最後のあたしのお節介聞いて!!」
近づいてきた莉子は少し声を上げた。
Γ何?」
Γ言おうか言わないか迷った。でもこんなに迷うならアユに告げたほうがいいと思った、あたしなりの応え」
Γ……」
Γあたし、俊と大和が話してるの聞いちゃったの。大和…、大和ね、もう何年も前から付き合おうって言われてる女の人が居るみたいなの」
Γ……」
Γアユに…アユにその気がないなら、その人と付き合うみたいな事、言ってた。アユが結果を出さなきゃ、何にも前に進まない。もう、大和を待たせるの止めなよ」
そう言った莉子は鞄の中から一枚の紙切れを出して、あたしに差し出す。
その紙をジッと見つめて、手を差し出そうとしないあたしに、莉子はあたしの手を取り紙を握らせた。
Γまたね」
莉子はそう言って手を振り、あたしに背を向けて改札の中へと入り姿を消した。
莉子が行った後、一人残されたあたしは手元に視線を落とし、その手にある紙切れを見つめる。
暫く見つめたあたしは、ゆっくりとその紙を開けた。
2つに分けて書かれた住所。一つはマンション名が刻まれた住所。後、一つは店の名前とともに書かれた住所。
相手の名前なんて書かれていなかったけど、それが大和の住んでる住所とBarの住所だってすぐに分かった。