甘い恋の誘惑
18時までの仕事をちゃんとこなし、あたしは雄二さんから受け取ったチケットを握り締めて社員用通用口を出た所で待った。
頭ん中がいまいち捗らないまま時間が過ぎてた。
Γアユちゃん、待たせてごめん」
10分くらい経って少し息を切らせてきたのは雄二さん。
雄二さんはいつもの笑みであたしを見下ろし、Γ行こっか」とそう告げる。
足を進ませて行く雄二さんを見つめるものの、あたしの足は動かず、その場で立ち尽くしたままだった。
そんなあたしに気付いた雄二さんは、
Γ…アユちゃん?」
と言って不安そうにあたしを見つめる。
雄二さんは優しい。だけど優しいだけじゃ、あたしは足りない。優しさも必要だけど、やっぱり雄二さんはあたしが求めてる人じゃない。
あたしのポッカリと空いた穴を埋めてくれる人じゃない。
考えて考えて出した結果あたしが求めてるのは――…
Γ…あのっ、」
未だにあたしを見つめている雄二さんに、申し訳ない声が喉の奥から吐き出る。
Γ何?話なら行きながら聞くから行こう。時間ないし」
そう言って雄二さんはあたしを急かす。急かされると急かされるほど言葉が出なくなり、
Γアユちゃん。行こう」
雄二さんはクルッとあたしに背を向け歩きだした。