甘い恋の誘惑
Γ本当は分かってた。アユちゃんの気持ち…」
数秒の沈黙を得て言ってきた雄二さんの言葉に思わずあたしは下げていた頭を恐る恐ると上げた。
見上げる雄二さんは小さくため息を吐き、哀しそうな瞳で薄ら笑う。
Γ何が…、ですか?」
思わず混乱気味た声があたしの口から漏れる。雄二さんは、どうしようもないって感じの顔付きであたしから目線を逸らす。
Γアユちゃんさ、前に好きな人居ないって言ってたけど、本当は居るよね?…ほら、前ここに来てた人」
Γえ?」
ここに来てた人?一瞬、誰の事を言ってるのかさっぱり分からなかった。
だけど記憶を辿って――…大和の顔が浮かんだ時――…ハッとし、
Γやっぱり、そっか…」
雄二さんの哀しそうな呟きが聞こえた。雄二さんを見上げると、薄ら笑いため息を吐き出し再び口を開く。
Γまぁ…何つーか、アユちゃんの気持ちを知ってて誘った事だし…」
Γすみません…」
Γつか、謝られても困るし」
そう言って一息吐き、苦笑いで呟く。そして雄二さんは、あたしが手に持っているチケットをスッと引っ張り自分の手に取った。
Γじゃあ、また…」
そう言って雄二さんはあたしに背を向け歩いて行く。
Γあのっ、」
分かんないけど申し訳なくなった雄二さんに声を投げ掛ける。その後、何が言いたいのかも分からないまま吐き出した声に雄二さんは振り返り、
Γ今まで通りに…」
そう呟いて、背を向けたままヒラヒラと手を振った。