甘い恋の誘惑

部屋のドアから身を乗り出す大和は、開いたドアの所で立つ女の人と何かを話していた。

時々、笑みを見せる大和。その前で大和より蔓延の笑みを漏らす女。


こんな早くに何してたんだろって言うのが、あたしの頭の中を一番に過った言葉だった。

1日でも1分でも1秒でも…そう思ったのがあたしの間違いだった。


1日でも早く1日でも遅く1時間でも遅かったらこんな場面に遭遇してなかったかも知れない。

莉子が言ってた大和の女の人とはこの人の事なんだろうか…って思った。もう、来るのが遅かったんだって思った。

こんなに返事をするのが遅かったあたしが悪いんだって思った。だから大和は――…



Γじゃあ、また…」


はっきりと聞こえた、その女の人の声に突然胸が苦しくなった。昔、何度か同じ経験をした痛みと全く同じの痛み。

女の人が大和に手を振ってこっちに歩いてくるその瞬間――…女の人を目で追ってた大和の目と一瞬合った。


Γ…アユ…」


小さく聞こえた大和の声。あたしの真横を通り過ぎて行く女の人。その女の人は通りすがりに不思議そうにジッとあたしを見てた。


女の人が行った後、あたしの数メートル先には大和が居る。その大和からスッとあたしは目を逸らし、今まで動かなかった足が一気に動いたその瞬間、


Γアユっ!!」


大和の叫んだ声が響いた。


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