甘い恋の誘惑
そんな事を思いながらあたしは無意識の内に大和の髪に触れていた。
そんな無意識に触れていた自分に少しビックリし、あたしは慌てて大和から手を避ける。
大和と居るとドキドキってする事はない。ただ莉子の前からの友達としか思えないし、たまに話す仲ってくらいにしか思えない。
好意をもたらす時はあるけど付き合いたいって思う事はない。なんだか自分でもよく分からないこの感情が心ん中をギクシャクする。
このモヤモヤ感を遮るようにあたしはソファーから立ち上がり部屋を出た。
細い通路を通ってお手洗いへ向かう途中――…
Γあっ!!えっと…どっちだっけ?アンだっけ?アユだっけ?」
あたしを苛々させる男の声で一瞬にして眉間にシワが寄った。
今から通り過ぎようとする前方に居る男はあたしの方を見て、アンかあたしかで迷っている。
ってかいい迷惑。
男は入ろうとしていたドアの取っ手から手を離し、
Γねぇ、どっちだっけ?」
またあたしが一番嫌がる言葉を再度口にした。
ってか、お前は誰だよ!!
内心で呟いたあたしは男を無視して通り過ぎる。通り縋りに、
Γおい、無視かよ」
って不機嫌に呟く声すらもはっきり聞こえた。制服からして他校とははっきし分かる。
だけど何であたしとアンの事を知ってんだろうと思ったのも――…後でそんな事を考えるだけ無駄だと思った。
その結果を導き出してんのはアンしか居ない。