甘い恋の誘惑
アンはよく男を連れ込む。だから大抵の男はあたしも見てきた。
見てきたんだけど顔なんてはっきりと覚えている訳がない。
手を洗ってトイレから出ると、男の話し声が聞こえ、それでまださっきの男が居るんだろうと実感した。
会話をしていると言う事はまた新しい男が居ると言う事で思わず嫌気がさすため息が零れた。
案の定、部屋に向かう廊下の前方に見えるのは、さっき居た男と、また新たに増えている2人の男。
あたしが近づくたびに男の視線が徐々にあたしに刺さり、
Γあ、ほらアイツ!どっちだっけ?」
なんて有名人でもあろうお言葉が飛んできた。
Γあー…、アユじゃね?多分。アユのほうが派手って聞いたし」
Γ俺、見分け方しってんぞ」
Γマジで?」
そう次々に掛け声が飛んでくるその声にイラッとする。そんな男達の横を通り過ぎようとした時、
Γなぁなぁ、俺の事知ってる?」
なんとも言えない馬鹿馬鹿しい言葉が飛んできた。
Γお前…そんなんで分かんのかよ」
クスクス笑う男を無視して通り過ぎて行くあたしに、
Γあ、あれアユ。アユ」
と誰が言ったのかも分かんない男の声が背後を突き刺す。