甘い恋の誘惑
Γ何で分かんだよ」
Γだって無愛想だから。アンだったらニコニコして可愛く話してくれるって俺、聞いたし」
Γあー…そう言えばアイツが言ってたわ。アンの方が話し方とか可愛いって」
次々イラつかせる言葉が無性に腹が立つ。ともかく“アイツ”って誰だよ!!
まぁ、アン繋がりなのはよく分かるけど――…
“無愛想だから――…”
“アンの方が話し方とか可愛い――…”
いい加減にしてほしい。あたしを見るたび見るたびアンと比べて比べてして…そして最後にはアンのほうが…って言うのいい加減にしてほしい。
ほんっと…苛立つ!!
苛立ったまま部屋のドアをバンっと開けソファーに置いていた鞄を掴んだ時、
Γアユ…どした?」
不思議そうにする大和の声が聞こえた。大和は起きたばかりであろう目を擦りながら欠伸をし、あたしを見つめる。
そんな大和にあたしは顔を顰めたまま掴んでいた鞄を抱えて飛び出した。
Γおい!!アユ!!」
背後から張り上げた大和の声を無視してあたしは走った。
だから男って嫌なんだよ。いつもいつも“アンがいい”“アンのほうが可愛い”って言う男が…。
あたしだってこうなりたくてなったんじゃない。小さい時からアンを気遣って、ママからはアユはお姉ちゃんだからって…
お姉ちゃんだからって言われても結局は全然、姉なんかじゃない。
同じ月、同じ日、全く同じの誕生日。たった数分、あたしが先に産まれただけであって姉扱いされ続けて、あたしが我慢してきた結果がこれ。
可愛く発するアンの声も笑顔を振りまくアンの顔も、作ってるんだと思う、その全てで皆が和らぐ。
だからいつもそんな隣に居るあたしが自分の意見も言わないまま今まで過ごしてきた。
もう本当…疲れる。