甘い恋の誘惑
帰る場所がなくなった。あんな事、聞いて帰れる訳がない。…と言うか帰りたくない。
未だにあたしの家の方を見つめている大和の横をスッと通り過ぎあたしは足を進めた。
Γあ、おい!!アユ!!」
Γ……」
通り過ぎたあたしに大和は困惑した声を出しあたしに近づいてくる足音が再び背後から聞こえる。
Γおい、アユどこ行くんだよ」
Γどこでもいいじゃん…」
そう不機嫌に呟きあたしはスタスタと足を進める。
Γよくねぇだろが。時間も時間だしよ。あぶねぇだろ」
Γ大丈夫」
Γ大丈夫じゃねぇ――…あぁ!!もぅ誰だよ!!」
途中で割り込んで鳴り響いてきた大和の携帯に、大和は舌打ちしながら苛々し始める。
あたしの背後からメロディーが鳴り、その音が完全に止まると同時に大和の不機嫌な声が辺りを響かせた。
Γ…んだよ。――…今、無理だから切るぞ」
パチンと携帯を閉じる音が響くと大和はまた、Γアユ!!」と呼び掛ける。
小さい頃からずっと行っていた公園が近くにある。あたしはそこの敷地内に入ってベンチに腰を下ろした。
夏で良かった。今が夏で良かった――…寒かったら公園なんて居れたもんじゃない。
それだけがあたしの救いだった。