甘い恋の誘惑
一瞬、時間が止まったかの様に息をする事さえ忘れてしまった。
空耳かとも思った。夢でも見てるんじゃないかとも思った。ただただありえない発言にあたしは息を飲み込んだ。
Γなぁ、聞いてんの?」
壁の方に顔を向けている為、背後から大和の声が念を押すように届いてくる。
聞いた。もちろん聞いた。正直、大和があたしにそんな事を言ってくる事、自体ビックリして嘘かとも思った。
大和にだって好意をもった事は何度もあったけど…
あったけど…
でも、あたしは大和とは――…
Γ大和…間違ってない?あたしアユだよ」
あたしは“アン”じゃない。可愛くもなければ素っ気ない“アユ”。
顔は似てるけど、あたしは“アユ”。
Γは?何言ってんだ、お前。ちゃんと聞いてなかったのかよ。アユって言っただろ」
ちゃんと聞いたよ?ちゃんと聞いた。だけど、そう言ってくるのも皆、初めだけなんだ。
結局最後は“アン”の者になる。あたしはそれが嫌。最後に悲しくなるのはあたしだから…
Γ大和…それ本気?」
Γ本気も何も嘘で言えっかよ」
皆、男はそう言うんだ。
Γ…ありがとう。でも、ごめん。あたし大和とは付き合えない」
そう言ったあたしの目尻から涙が流れ落ちていったのは何でか分かんなかった。
滑り落ちる様に流れ落ちる涙をあたしはそっと手で拭った。
Γ…そっか。じゃあ、さっきの話はナシって事で」
またそう言った大和にあたしは流れ落ちてくる涙を必死で止めていた。