甘い恋の誘惑
Γ一人じゃなかったら誰と住むんだよ」
Γ誰って彼女しか居ないじゃん」
Γそんなもんいねぇよ」
小さく呟いた大和はため息とともに煙を吐き出し、短くなったタバコを灰皿に押し潰した。
Γへー…」
そしてあたしの口から漏れた小さな呟きは、“そうなんだ”とも捕えるような“何で?”とも捕える様な変な感情の呟きだった。
彼女、居ないんだ…。じゃあ、卒業前に付き合ってた女とは別れたって事だよね…
分かんない。5年間の空白で大和の何もかもが知らないままだった。
それだけ大和に興味がないと言うか気にしてないだけだった。 大和のすべてを聞かない事をいいようにして、あたしは大和を遠ざけようとしてたのか…
だけど、今になると何で遠ざけ様としてたのかも分かんなくなってた。なんだか頭の中がごちゃごちゃする。
Γ俺さ…」
不意に聞こえた大和の声に目を向けると、大和は体を起こして前屈みになる。
髪をクシャッと掻き崩し、小さく息を吐き出し――…
Γ俺、やっぱアユ――…」
Γあっ、いたいた!!やーまーとー」
大和が言い掛けた言葉を途中で遮ったのは、何とも言えないくらいの明るい弾けた声だった。
その声に大和は小さく舌打ちをし、目線をその方向に向ける。同じくその方向にあたしも目を向けると一人の女が2階の廊下から大きく手を振っていた。