大空の唄

殺された…?


気が付けば涙が止めどなくあふれていた


愛する人が殺されるということがどれだけの苦しみか


あたしには計り知れない


だけど、苦しいなんて言葉じゃ足りないことぐらいあたしにも分かった


「彼女の心はそのことをきっかけに砕け散った
精神は崩壊し、無力感に襲われ、ひたすら自分を責めた


自分の存在が、あの人を殺したんだ…と


彼女の大切な人を奪った犯人はもちろん逮捕されたけど
ファンの間で彼は、“悪魔の手から和葉を助け出した英雄”として称えられた
もう…それはファンという肩書を背負った宗教のようでしょ?



彼女は仕事なんて続けられる状況ではなかったけど
全てを隠していたからそこから逃げることさえ許されなかった


もちろん、自ら命を絶つことも…


周りを何も信じられなくなった彼女は薬に手を出した
そうして何とか自分の精神を保つしかなかった



これ以上の悲劇なんてないというほどの悲劇


でも、悲劇は止まることを知らなかった


和葉が狂ったように一部のファンも狂ってしまっていた



そして…ある日…


その狂ったファンたちは数人で仕事帰りの和葉を襲った


彼女の崩壊した精神はそこでもう修正不可能になってしまった

彼女は襲ってきた男たちを持っていたカミソリで刺した


もう、彼女を止めるものは何もなかったの


それが、大人気歌手和葉の悲劇


そして、のちにテレビで騒がれた事件


男たちは刺されどころが良かったのか誰ひとり死なず


和葉は警察に捕まり、本当の牢獄に入ってしまった


重要参考人である彼女が精神を病んでしまっていたこともあり

全てを誰にも明かさなかったこともあり


彼女に行われてきた悲惨なファンの行動は誰にも明かされず

闇に葬られてしまった


私も、これを知ったのは、彼女の日記を見つけて読んだとき


蒼空はね…彼女が襲われた時身籠ってしまった子


彼女は蒼空を牢獄の中で産んだ



それが…蒼空と私の母の真実…」







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