カウントダウン・パニック


「嫌がらせが段々エスカレートしていくなか、新しい公演の発表があった。曲はヘンデルのオラトリオ『メサイア』。二日間あるうちの二日目のソプラノに彼女が抜擢されたの。」


本城は出されたコーヒーに少し口をつけると続けた。


「おめでとうと言う者もあれば睨み付ける者もいたわ。でも考えてみるとこの事が様々な波紋を呼んだのね。ついに事件が起きてしまったの。」

「それが先ほど言っていた…」


本城は小さく頷く。


「練習室に置いてあった彼女のペットボトルの中に誰かが薬物を混入したの。何も知らない彼女はそれを飲むと突然うめき声を上げ苦しそうにのたうち回ってそのまま病院に運ばれたわ。」

「でもあなたと同じなら命に別状はなかったんですよね?ならなぜ自殺なんか…」

「確かに彼女が飲んだ薬物も私が飲んだ薬物も同一の物でした。でも量が全く違っていたそうです。私は声が悪くなるだけですみましたが彼女…」


本城は一旦目を瞑った。


「声を失ったんです。」


すると再び目を開け藤森を見る。


「彼女の声帯は薬物のせいで殆ど焼け爛れてしまっていたらしくやむを得ず声帯を切除してしまったんです。」
< 102 / 154 >

この作品をシェア

pagetop