カウントダウン・パニック
「目覚めた彼女は既に声を失っていました。それは彼女にとって生き地獄のようなもの。日々飛び交う音の世界に身を起きながら自らの楽器を奏でる事が出来ないのですから。それが今までそれを生きがいにしていた者なら尚更。」
すると本城は鞄に手を伸ばし中からハンカチを取り出した。
どうやら少し涙ぐんでいるようであった。
「そして彼女が手術をして一週間後、病院の屋上から身を投げ出してしまったの。彼女の病室には遺書と思われる手紙が二通遺されていたわ。」
「二通ですか?」
「はい。一通目には“音があふれる世界で音を忘れる事は出来ない。もし音を取り戻せるのなら天国へでも地獄でさえも喜んで行きます。”と書かれていたそうです。」
藤森はこの内容を聞く限りでは湯布院という女性が本当に心から歌を愛していたのだと痛感した。
「ではもう一通の方は?」
訊ねると本城は首を横に振った。
「もう一通の方は当時彼女が付き合っていた方宛てだったので内容までは…あっ、でももしかすると警察の方で保管してあるかもしれませんよ?」
「えっ?」
藤森は意味が分からず首を傾げる。