カウントダウン・パニック
「彼女両親亡くして一人暮らしだと言ってましたし、多分彼の方にも手紙は渡されていないと思うんですよね。」
「それはどういう意味ですか?その遺書にはちゃんと受け取り主の名前があったんですよね?」
「ええまぁ…でも書いてあったのが“ヘルマン”だったんです。」
「えっ?」
藤森はどこか聞き覚えのあるその名前に反応した。
本城はその声が僅かに反応したのを感じたが構わず話を続ける。
「これが果たして外人の方なのか、はたまた愛称なのか…一応彼女を見舞いに来た男性全員には確認したらしいんですがどうも該当者がなかったそうなので。」
「そうなんですか。」
「そう言えば、以前彼女こんな事言ってました。『私とあの人はヴァーグナー仲間』だと…意味を訊いてもヒントは読み方としか教えてくれませんでしたが。」
すると今まで相槌を打ち聞いていた藤森が突然声を上げた。
「ヴァーグナーっていったら今日公演しているオペラの作曲者じゃないですか!」
「あ、そういえばそうですね。」
ようやく気付いたかのように本城は手のひらをポンと叩く。
「他にその湯布院と言う方、ヴァーグナーに関する事言ってませんでしたか?」