カウントダウン・パニック


「例えば“タンホイザー”の綴りよ。液晶パネルには二十六のアルファベットしかなかったけど、それだとタンホイザーの正しい綴り表示は出来ない…。」

「何でですか?」

「パンフレットのタンホイザー綴りの“A”には“ウムラウト”が付いてたのよ。」


赤羽の言っている意味が分からない渡辺はポカンとした顔をする。

すると寺崎は補足をするように渡辺に説明した。


「ウムラウトというのはドイツ語でa・o・uの上に二つ並んだ小点“‥(ウムラウト)”のことだ。」


寺崎から説明を受けると渡辺はふーんと何度か頷いた。


「でもただAの上に点々が付くだけなんですよね?だったら別にそれがパネルの選択肢に無くても大丈夫じゃないですか?」

「それがダメなのよ。」


すると赤羽は渡辺の方に振り向く。


「ウムラウトが有るのと無いのとでは発音が変わってくるのよ。」


そう言って赤羽はまた前を向き直す。


「正しい綴りを入力しろって言っていた犯人にしてはおかしいわよ。登場人物の綴りを知っているのに選択肢にウムラウト付きのAを入れないなんて。」


そう言いながら赤羽は着いた応接室のドアノブを回す。
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