カウントダウン・パニック
何となく会話が気になった仁科は再び物陰に隠れて二人の会話を聞く。


「それにしても本城が自殺しないかどうかだけがずっと心配だったわ。」

「本当ですよね。“前”の時は突然自殺してかなり焦りましたしね。」

「でも取り越し苦労で済んだけどね。」


(何の話しをしているんだ?)


いまいち主旨が掴めない。


「でも今回は五年前の時より薬の量けっこう減らしておきましたから。」

「まぁ、自殺したとしてもどうせ歌劇団の方でもみ消してくれるから別にいいんだけどね。“湯布院”の時みたいに。」

(なっ!?)


仁科は一瞬耳を疑った。


「それにしても湯布院には笑えたわ。声が出なくなったのは予想外だったけどまさか自殺しちゃうなんてね。」

「おまけに遺書に“音のためなら天国にでも地獄でさえもいきます”だなんて書いちゃって、本当笑えてきますね!」


二人はくくっと声をもらしながら続ける。


「あー、そう言えば今回する《タンホイザー》って湯布院がやけにやりたがっていたオペラじゃないですか?」

「そう言えばそうね。じゃあ公演日は湯布院の冥福でも祈りながら歌おうかしら!」


すると二人は吹き出し大笑いした。
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