カウントダウン・パニック
それは“ヘルマンへ”と書かれた、湯布院が残したもう一つの遺書だった。


「これは湯布院さんがあなたに宛てた最後の手紙です。封は私が開けてしまいましたが中に綴られている言葉に偽りはない筈です。」


そう言って手紙を仁科に渡す。

仁科はそれを震える手で受け取った。

封筒に書かれた宛名を暫く見つめてから便箋を取り出し内容を読み始める。



『突然こんな事になってしまい本当にごめんなさい。

私、あなたの事は本当に愛していました。

でも同じように音楽も愛していたの。

だから音を無くした今、どうしても取り戻したいの。

それでね、私音を探す旅に出ることにしたの。

いいよ?笑っても。

でもこれは私にとっては大切な事。

だって私の夢はもっと練習に励んでいつか完成するあなたの造った劇場で最高のオペラを歌う事なんですもの。

だから許してね。



それからもしあなたがこの真実をつきとめたとしても絶対に復讐とかはしないで。

だって勝手に旅に出たのは私なんだから。

それにそんな時間があるならもっともっと素晴らしい建築家になってほしいもの。

私ずっと応援してるから。
< 147 / 154 >

この作品をシェア

pagetop