そのときは。

いよいよ涙が溢れてきた時、ふいに「亜紀。」と呼ばれた。





『亜紀、亜紀、ごめんね…』


「…悠?なんで?悠?」


確かに聞き覚えのある声。


電話越しなのが、じれったい。





『守れなくて、ごめん。』


「…そんな、謝るなら行かないで」

「いやだよ。いやだよ」


『ごめん…』


「行っちゃやだ」


まるで子供みたいに、初めて悠にすがった。





ずっと、言えなかったこと。


問い詰めることも、ひき止めることも、怒ることすら出来なかった。


いつも優しかったその目が、あたしのせいで悲しみに歪んでいくのが、耐えられなくて。


それがやっと今、言葉になった。

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