sweet lovers A
 先輩と、会えて、話も、出来たのに。

 あたしのブラウニーは、あたしの手に残ったまま。

 訳も分からないまま、あたしは中庭に取り残された。

 今のは、夢だった、のかな。

 でも。

 あたしの耳には、あたしの名前を呼んでくれた先輩の声が残ってる。

 可愛い、って言ってくれた声が残ってる。

「なに、今の……」

 声に出したら、涙まで流れてきた。

 なんなの。

 あたし、何かした?

 先輩と会えて、チョコを渡すチャンスだと思ったのに。

 一体、なんなの?

 先輩、沢山チョコ受け取ってたのに。

 なんであたしのは受け取ってくれなかったの!?

 どうしてなの!?

「――……っ」

 涙が止まらない。

 でも。

 いつまでも中庭に居るわけにもいかなくて、あたしはとぼとぼと昇降口に向かった。
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