あなたに触れるとき
film one

§1

写真が好き。
表現するのは難しいけれど、私が見てきたものを残せるから。
広辞苑と同じくらいの厚さのアルバムは2冊目で、くだらない写真、失敗した写真も全部ひっくるめているので残すところあと1ページまでたどり着いた。
でも、こんなに撮っていても、"自分"はわからないままで。
どんなに表現しても、"自分"は写りだしてくれはしなかった。
二号(2冊目のフォトアルバムをこう呼んでいる)の半分が埋まったぐらいから私は欝な考えしか浮かばなくなってしまった。
二号の四分の三が埋まったぐらいからある考えが浮かんだ。
そして今日。
二号の最後の1ページにはきっと写真は入らないだろう。
冬に片足を突っ込んだ今の季節は比較的温かかったが、それでも夜は上着を羽織らなければ寒かった。
「星は出てないかぁ・・・」
高層マンションの屋上に来れば少しは空が近くなって星も見えると思っていたが、期待はくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨てられた。
・・・・・・曇ってる。そりゃもう見事に。
いやぁ・・・萎えるなぁ。
冷たい鉄のフェンスに触る。そのまま下を見れば、1階エントランスの入り口の屋根がはるか下に見えて目眩がした。
愛用のピンクのデジカメを構えて、レンズごしに同じ景色が写るようにピントを合わせる(やっぱり目眩がした)。
お小遣いを貯めて買ったカメラは一眼レフみたいな良いヤツなんかじゃなくて、それでもソコソコ有名なメーカーのデジカメだったが、それでも自分にはこのくらいが似合ってると思う。
ピピッと安っぽい電子音と共にちかりと目潰し効果に最適と思われる光も、暗く沈んだ屋上を照らした。
直ぐ様写した画像を確認する。
暗いなかにただ唯一デジカメのディスプレイだけが自分(の顔)を照らしているので、遠くから見たら絶対幽霊に間違われるだろう。まぁ気にはしないが。
「・・・よし」
我ながら上手く撮れたじゃないか。・・・・・・うん、満足。
「さて、と」
やるべきことはやった。心残りなのは今の写真を二号に入れれないことだけだが、印刷してる時間・・・は、まぁあるのだが、面倒くさいのでしない。

矢吹そら、19歳。
今日私は死んじゃおうと思います。
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