あなたに触れるとき
§3
困り果てて途方にくれていると誰かが勢いよくエントランスに入っていったのが見えた。
高層マンションの屋上で死のうと決意を固めたのに、どうにもこうにも頑丈な鉄の檻の向こう側に行く方法が見つからない。転落防止の為に作られているので登るにも苦労するどころか、てっぺんに鼠返し的な感じでぐにゃりとこちらに曲がっているので攻略は出来そうには無かった(簡単にこえることが出来たら問題だが)。もうちょっと運動能力を身につけておくべきだった・・・・・・。
格好良く儀式的なものをしたのに出鼻を複雑骨折された気分だ。自分で言ってて意味わからないが。
「寒い・・・」
何も動かず突っ立っていたのである程度着込んでいたがやはり体が冷えたらしい。
ここまで上手くいかないといっそ出直した方が良いかもしれない。ここに来てから聞こえるのは風の音のみで、さっきから胸の辺りがきゅーっとなるのはきっと気のせいだろう。
バァァァァン!
「ゴール!!」
けたたましい音と少しごろつく男の歓声がすぐ後ろから聞こえたのはそんな時だった。
あまりの衝撃に心臓が止まって息が出来なくて冗談抜きに死ぬかと思った(なんか格好悪い死に方だ)。
「階段ダッシュきつー!屋上までエレベーター繋がってないの今知ったー!」
空気の読めない乱入者の目的はよく知らないがどうやら下の階から走って来たようで(エレベーターはこの下の階までしかない。なんたって屋上は立ち入り禁止だから)、黒いダウンのベストを脱いで薄い長袖一枚になってパタパタと手ウチワをしている。
未だに爆発している心臓を宥めながらいつ気付くのかと待ってはみたが、肝心の彼は疲れただの腹減っただの騒ぐだけだけでなかなか気付かない。・・・少し頭にきた。
「あのっ!!」
どうやら思った以上寒さのダメージをうけていたらしく、渾身の力で絞りだした声は自分でも驚くぐらい弱かった。
声に気付いた少年は−−とっくに気付いていたのだろう、玩具を見つけた子供のように、それでいて裏があるような笑みでこちらを振り向く。
初めて合った視線。
自信に満ちた強い光をもつ瞳だなと、私は思った。
高層マンションの屋上で死のうと決意を固めたのに、どうにもこうにも頑丈な鉄の檻の向こう側に行く方法が見つからない。転落防止の為に作られているので登るにも苦労するどころか、てっぺんに鼠返し的な感じでぐにゃりとこちらに曲がっているので攻略は出来そうには無かった(簡単にこえることが出来たら問題だが)。もうちょっと運動能力を身につけておくべきだった・・・・・・。
格好良く儀式的なものをしたのに出鼻を複雑骨折された気分だ。自分で言ってて意味わからないが。
「寒い・・・」
何も動かず突っ立っていたのである程度着込んでいたがやはり体が冷えたらしい。
ここまで上手くいかないといっそ出直した方が良いかもしれない。ここに来てから聞こえるのは風の音のみで、さっきから胸の辺りがきゅーっとなるのはきっと気のせいだろう。
バァァァァン!
「ゴール!!」
けたたましい音と少しごろつく男の歓声がすぐ後ろから聞こえたのはそんな時だった。
あまりの衝撃に心臓が止まって息が出来なくて冗談抜きに死ぬかと思った(なんか格好悪い死に方だ)。
「階段ダッシュきつー!屋上までエレベーター繋がってないの今知ったー!」
空気の読めない乱入者の目的はよく知らないがどうやら下の階から走って来たようで(エレベーターはこの下の階までしかない。なんたって屋上は立ち入り禁止だから)、黒いダウンのベストを脱いで薄い長袖一枚になってパタパタと手ウチワをしている。
未だに爆発している心臓を宥めながらいつ気付くのかと待ってはみたが、肝心の彼は疲れただの腹減っただの騒ぐだけだけでなかなか気付かない。・・・少し頭にきた。
「あのっ!!」
どうやら思った以上寒さのダメージをうけていたらしく、渾身の力で絞りだした声は自分でも驚くぐらい弱かった。
声に気付いた少年は−−とっくに気付いていたのだろう、玩具を見つけた子供のように、それでいて裏があるような笑みでこちらを振り向く。
初めて合った視線。
自信に満ちた強い光をもつ瞳だなと、私は思った。