風花

「モモー!モモ、散歩行くよー!」
「ワン!」

玄関のドアを開けると、リルが飛び出してきた。
くるんと巻いた尻尾を千切れんばかりに振りながら、じゃれついてくる。

「待ってて、すぐに着替えてくるからね」

モモは、今年で3歳になる柴犬だ。
私の親友であり、兄弟であり、何よりも大事な存在。
だって、犬は絶対に裏切らないもん。

「幸子、またこっちに帰ってきたのかい?」
「うん、おばあちゃん家が私の家だもん」

大好きな、おばあちゃん。
私は学校から近いのを口実に、週の半分は、おばあちゃんの家に泊まらせてもらってる。



『情けない…お姉ちゃんは成績優秀だったのに…』



5つ年上のお姉ちゃんは、T大生だ。
生徒会長や雑誌の読者モデルにも選ばれて、まさに『親の自慢』ってヤツ。
だから、許せなかったんだよね?ママ…
公立高校の受験にすら失敗するような落ちこぼれが自分の子供だなんて。
認めたくないんでしょう?
だから、ママは私を見ないんだよね。
まるで、私なんてこの世に存在していないみたいに、視線すら合わせてはもらえない日々。



「ママに電話しとくんだよ、こっちに泊まるって」

無駄だよ、おばあちゃん。
ママは、私からの電話には出てくれないから。
メールを送っても、返信すら返ってこないし…見ないで削除されてたりしてね。

「ん、分かってるよ」

いいんだ。
おばあちゃんとモモがいれば、それでいい。
ママも、パパも、お姉ちゃんさえいてくれればばいいんだから。
私の家族は、モモとおばあちゃんだけ。それでいい。

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