Romance Cutter ―初恋の傷請け負い人― 第五話
「ほのか…」
ケイはそう呟くと、賢の腕から離れゆっくりと立ち上がり、座敷から去っていった。



「…あらまあ、旦那様。ケイ坊ちゃんは?せっかく坊ちゃんの大好きな最中をお持ちしましたのに…」
「…自分の部屋にでも戻ったのだろう。…?…あ、いや、すみ江さん、最中は届けにいかなくて良い。今は独りにしておいてやってくれ。」



窓から差し込むも、乏しい、夏も下旬の陽の光。薄暗い、ケイの部屋。ベッドに仰向けになりながら、独り考え込むケイ。包帯でぐるぐる巻きにされた左腕を見つめながら、まだ断片的ではあるが、ほのかと共に過ごした日々を回想していた。


-思えば、君の笑い顔は、今まで一度も見たことはなかったね。そして、おぼろげながら僕が覚えているのは、なぜか全て君を笑わせようとしているシーンばかり。でもなぜ、僕は君に対してそう言う事をしてきたんだろう。
…後、思い出す事と言えば、ただ一つ。それらとは全く違うシーンがあって…-
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