キミが好き

あたしだけ





あなたはまだあたしを見ているだろうか。



もし、見ていなかったとしてもあたしはあなたを見ているから。



…トントン。



来てしまった。



山田の事務所。



山田は高校を卒業してから“夢”を叶えたのだ。



『俺、テレビ出て海外にもたくさん行って超有名な俳優になんだ』



そう言ってたことが、最近のことのように思える。



キラキラした瞳をして、子どもっぽく楽しそうに語る山田に胸が軽くトクンと弾んだ。



そして、応援したいって思った。



今も、誰よりも応援しているつもりだ。



でも、やっぱり心のどこかがモヤモヤしていて。



二人分の食器があるのにも関わらず、食卓に並ぶのは一人分。



山田が借りたマンションは二人だと狭いくらいなのに一人だと広すぎる。


だから、寂しいって苦しいって我慢出来ないわけじゃない。



そんなの、デビューが決まった日から理解しているつもりだったし。



人気が出れば、そうなることは重々承知の上だった。




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