キミが好き
お姫様の正体
キリキリ。
…まただ。
あの合宿以来、山田を見るたびキリキリと胸が痛む。
「おい、貧乳」
いつもの調子で話しかけてくる山田に、あたしの言葉は喉で詰まる。
いつも通りにしなくちゃ。
いつも通りに
いつも通りに…!
そう思えば、思うほど言葉が出てこない。
あたし、こんなときなんて言っていたんだろう?
そんなことさえ、思ってしまう。
「…トトト、トイレっ!行ってくる!」
あたしは、山田を避けるようにクルッと振り返ると、スタスタと歩きだす。
なのに、山田はあたしを呼び止めた。
「おい、浜野」
「……」
黙って立ち止まる。
「…浜野、お前…」
もしかして…
聞いていたことバレちゃった?
「ごめん、盗み…──「トイレ逆方向だぞ?」」
「え?」
すっかり、勘違いして盗み聞きしてましたなんて、自分から言う寸前だった。
「あ、ははは…っ」
なにやってんのよ、あたし。
「そうだった〜、逆だったわ〜、あたしったらやだ〜」
なんて、わざとらしく声を張り上げ山田の横を通りすぎる。