傷だらけの僕等
熱なんか出ていなかったら、ありったけの力で振りほどくこともできたんだろうけど…
今日のあたしにそんなことは出来なかった。

あたしの足から力が抜ける。

あたしを呼びとめた男の方へと倒れる。


「ほらな…だからそう言ったのに。」


男はあたしを優しく抱き抱える。

あたしの耳に、男の低くて甘い声が残る。

それに反してあたしは体にぐっと力を入れる。

この反応も、もう条件反射だ。

たとえ優しく触れられようと、この体に染み付いてしまった人間に対する恐怖は、そう簡単にぬぐい去ることなんてできない。

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