ラヴレス
「―――どうぞ」
ジンが淹れた紅茶が、智純の目の前に音もなく置かれた。
智純の前に座るキアランには、コーヒーが。
智純は置かれた紅茶には目もくれず、ただひたすらキアランを睨み付けていた。
高い天井、そこからぶら下がる豪奢だが嫌味ではないシャンデリアに、絶妙な配置で部屋の格式を高くしている美しい調度品達。
窓際の、天井から床までガラス張りになったスカイビューの真横に置かれたテーブルとソファに、智純は座らされている。
車のドアをジンに開けられた瞬間、脱兎の如く逃げ出した智純を、キアランは放り投げるような勢いで掴み上げ、まるで荷物でも運ぶかのように引きずった。
さすがにメディアにも狙われているキアランのそんなシーンを抑えられるわけにもいかず、裏口からバックヤードを通り部屋へと向かう。
セメントに汚れていた上着はさすがに脱いだが、半袖のTシャツに汚れた作業ズボンの智純は、このホテルでは目立ちすぎた。
たまに、ごくたまに智純が給仕係としてアルバイトに来ていた政界人も利用するというホテルのスウィート。
キアランは、そこに泊まっていた。