ラヴレス
時計の針は三時を指している。
職場ではお茶の時間だ。
きっと、外国人に連れ去られた自分の噂で持ちきりだろう。
考えただけで居たたまれない。
「…君に、まだ幾つか話しておきたいことがある」
キアランは、ただひたすら自分を睨み付けている智純などお構いなしに話を進めた。
智純は無言のまま、話くらいなら聞いてやる、という態度を貫いている。
紺碧の視線は眺めのいい景観に向けられているが、そんなもの実際は見てやしないのだと智純は気付いていた。
キアランの視線の先にあるのは、ただ叔父上、叔父上、叔父上、…叔父上だけ。
父や母の話は一切しないにも関わらず、まるで親鳥を慕う雛のように、キアランは「叔父上」を大切にしている。
疑問はあっても訊かない。
聞けば、同情してしまうかもしれないからだ。
このとき智純は、キアランへ自分と同じ匂いを感じ取っていた。
「―――君がもし、イギリスには行かないと頑なに拒んだ時の手段として」
キアランはゆるりと視線をコーヒーへと向け、言葉を切り、智純を見た。