ラヴレス
「―――…君の母上が育った場所だ。叔父上は反対されるだろうが」
残念ながら、僕にはなんの思い入れもない。
「…っ、」
智純は堪えきれない怒りを、ただ真っ直ぐ、キアランへと向けた。
立ち上がり、ふたりの間に置かれていたテーブルなど見えていなかった。
カップがソーサーから擦れ落ち、飲まれることもなく、コーヒーと紅茶が床へと滴る。
―――許せない。
「…よく手が出るな、君は」
渾身の一撃を食らったキアランの口端から、じわりと血が滲んでいた。
そんなキアランの襟首を掴む智純は、震えている。
「…なにも」
そしてその声も。
「なにも、知らないくせに」
家族のぬくもり。
血の繋がらない他人だらけの「家族」。
けれどだからこそ、労りあって埋め合って、互いを支えに、生きてきた。
「…そんなことやってみろ。お前を殺してやる」
「家族」は、智純にとって唯一のもの。
なくなっては生きていけない。
バラバラになっては幸せになれない。