ラヴレス
智純は、キアランをもう一度殴ろうと腕を振り上げた。
堪えられなかった。
こんな男に、母を裏切った男の血縁が、次は自分を、家族を、母が大好きだったあの場所を、壊そうと、云う。
「君がイギリスについてくれば、そんなことはしない」
そんな智純の震える拳を、キアランはやんわりと掴んだ。
殴られた勢いで体勢が崩れ、のし掛かるように身体を抑え込んでいる智純を見上げながら。
「―――君が決めるんだ、智純」
その揺れる瞳を、卑怯な手で、また強く揺さぶる為に。
「家族を、守りたいなら」
彼女に託して、そしてすべてを、押し付けるようなやり方で。
彼女自身の手で、彼女の首を絞めるような、卑怯なやり方。
「…イギリスに、来い」
強い眼光は、キアランの決意だった。
なにを傷付けてもいい――。
智純を、彼女の大切なものを、そして自分を。