ラヴレス
智純は、決めたのだ。
この卑怯な男に屈し、それでも「家族」を守るために。
申し訳ない、とは思わなかった。
なにせキアランの一番は、「叔父上」以外にない。
智純にとって、家族がそうであるように。
キアランとて、智純と立場が逆ならばそうしただろう。
自身の犠牲で「家族」が守れるなら、例え離ればなれになったとしても。
この「取引」に、選択肢などはじめからなかったのだ。
キアランと智純は似ていた。
大切なものに、異常なほど真っ直ぐ在るその心が。
だからこそ、キアランは智純にそう持ちかけたのだ。
「君が抜けた分の収入は、僕が補う。アナベルト・シュナウザー家は、君の大切な「こころの家」に個人的な支援をさせてもらうことにする」
智純がイギリスへ行くとなれば、「こころの家」の財政が厳しくなるだろう。
智純を少しでも慰めようと、キアランはそんなことを口にした。
そんなことでしか助けられない自分が酷く情けなかったが、なにひとつ出来ないよりはずっとマシだろう。
しかし智純から返ってきた言葉は。
「当たり前だボケ」
だった。