ラヴレス
「…あのことは、話されなかったのですね」
智純が帰ったあと――車で送ろうとしたら、脚を蹴られてお前のツラなど見たくないと怒鳴られた――、ジンは汚れたテーブルを片付けながらキアランへと視線を向けた。
智純は激昂して気付かなかっただろうが、キアランは「いくつかある話」をひとつしかしていない。
「…あぁ、今日はもう言わないほうが良かっただろう」
同意を求めるように、キアランはそう言った。
殴られた頬を冷やしながら、腕で顔を隠して横になっている。
言わなかったのか、言えなかったのか。
「…そうですね」
ジンは、先程から無償に居たたまれなさを感じている。
智純にしてもキアランにしても、少々真っ直ぐすぎやしないだろうか。
キアランは叔父上の為に。
智純は家族の為に。
本来なら、「あんな約束」、「知るか」の一言で済ませられた筈なのだ。
智純も、あんな根拠のない「脅し」など、無視してしまえば良かった――キアランは勿論、本気だったが。
真面目過ぎて、余計に傷付いている。
そしてそれに気付いていない。
ジンは、先を思いやり深く溜め息を吐いた。