ラヴレス








智純の仕事先には、秘書が赴き、説き伏せた。

なんと智純は、あの土建会社の他に四つもの会社に籍を置いており、すべて非常勤扱いとは言え、仕事だけはちゃんとこなす、と上々の評価を受けていた。

キアランの姿を唯一見た土建会社の親方だけは、秘書の話にいい顔をしなかったらしいが。

それを智純に伝えると。



『は?なに勝手なことしてるわけ?まだ私からは直接挨拶にも行ってないのに』

と、容赦なく睨まれたそうだ。
これは秘書談。

しかし暇がないだろう、と秘書が口添えれば、智純は親方にだけは自分で挨拶に行く、と言ってきかなかったらしい。


『当たり前。お世話になった人に他人を通じて辞めます、なんて非常識な真似できない』

義理堅い女性である。

いや、日本人は皆このようなものなのだろろうか。

―――それにしたって、お堅いような気がしないでもない。



「そりゃあんたが、いつも指示する側に立ってるからだ。一回くらい下っ端で働いてみろよ、世間知らず」

一理あるので尚更、腹が立つ。






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