ラヴレス
キアランを警戒し、まるで泥棒でも見張っているようだった子供達が、やがてせかせかと家のなかを歩き回る智純にくっつきはじめた。
智純は、普段なら怒るのだろうが、作業を途中で止め、子供達とひとりひとり話を始めた。
お茶にしようか、と奥方ののんびりした声が響く。
開け放たれた襖や引き戸の先に、子供達に揉みくちゃにされがら笑う智純が見えた。
「あの子らにとっては、智純が姉なんですよ」
老いたこの家の主人が、穏やかな皺に瞳を埋めて笑みを浮かべた。
日曜の暖かな陽射しの下、智純と子供達は縁側にぐるりと円を作り、他愛ないお喋りに夢中になっている。
―――来るんじゃなかった。
あんな顔を見ては、冷徹なままでは居れないと、正直思ってしまった。
あんな幸せな居場所から、彼女を引き離そうとしている自分は、子供達からはどんな残虐非道な生き物に見えるのだろうか。
「…キアランさん」
しかし、どこか悔やむような表情を浮かべていたキアランに、主人はゆっくりと向き合った。
奥方が柔らかな緑茶を淹れて、キアランと秘書のジンへと勧める。