ラヴレス
「…それをこうして使わずに取っておいて良かった。もしあの子が助けを求めてきたら、全力で助けてあげなくてはね、とおじいさんとお話していたんですよ」
優しい言葉だった。
なにもかもが、子供達へ、ここを去った、全ての子供達へと注ぐ慈愛。
(…痛い)
こんなふたりから、娘を奪うのだ。
「貴方があの子を迎えにきてくれて、本当に感謝しています」
「智純が私達のために、子供達のためだけに生きていくのを、とめてやれる」
柔らかで真っ直ぐな優しさが、今のキアランには痛い。
「どうかあの子を、宜しくお願いします」
ふたりの白髪がふわりと揺れて、夫婦は――智純の父と母は、キアランに深く頭を下げた。
―――こんな自分に。
肝心なことなど何一つ話していない卑怯な自分に。
大切な娘の為に、別れることなど辞さないのだと。
「…あの、」
強く胸を打たれたキアランが、決意を込めるように顔を上げる。
なんとか、なんとかしてこの心優しい夫婦に応えたかった。
約束は必ず守る、と言えばいいのかも解らないまま口を開いたキアランの言葉は、しかしすぐさま掻き消された。
「―――いやだ!」