ラヴレス









「…それをこうして使わずに取っておいて良かった。もしあの子が助けを求めてきたら、全力で助けてあげなくてはね、とおじいさんとお話していたんですよ」

優しい言葉だった。
なにもかもが、子供達へ、ここを去った、全ての子供達へと注ぐ慈愛。


(…痛い)

こんなふたりから、娘を奪うのだ。



「貴方があの子を迎えにきてくれて、本当に感謝しています」
「智純が私達のために、子供達のためだけに生きていくのを、とめてやれる」

柔らかで真っ直ぐな優しさが、今のキアランには痛い。


「どうかあの子を、宜しくお願いします」

ふたりの白髪がふわりと揺れて、夫婦は――智純の父と母は、キアランに深く頭を下げた。


―――こんな自分に。

肝心なことなど何一つ話していない卑怯な自分に。

大切な娘の為に、別れることなど辞さないのだと。



「…あの、」

強く胸を打たれたキアランが、決意を込めるように顔を上げる。

なんとか、なんとかしてこの心優しい夫婦に応えたかった。

約束は必ず守る、と言えばいいのかも解らないまま口を開いたキアランの言葉は、しかしすぐさま掻き消された。





「―――いやだ!」







< 113 / 255 >

この作品をシェア

pagetop