ラヴレス
見れば、襖を挟んだ廊下に少年が立っている。
「カンタ」だ。
キアランが初めてこの「こころの家」を訪れた時、半裸の智純と共にセンセーショナルな登場を果たした、あの少年だった。
パジャマにちゃんちゃんこを羽織って仁王立ちしているカンタは、ぶるぶると顔を真っ赤にして震えている。
カンタはぎろっと逆立てた眉を夫婦に向け、わっとラジオのボリュームを急に上げた時のように、喚いた。
「なんだよー!じいもばあも、なんでちい姉を連れてくやつに頭なんか下げてんだよー!」
その大声に、居間の向こう側に居た智純と子供達が目を丸くしてこちらを見ている。
カンタは、今にもぶちりと血管が切れてしまいそうなほど顔を真っ赤にし、怒っていた。
「姉ちゃんはずっとうちにいるんだ!姉ちゃんはずっとカンタ達の姉ちゃんなんだ!おまえなんかに姉ちゃんをとられてたまるかー!」
勇ましいが、カンタの強気はすぐに決壊してしまった。
ぽかん、として自分を見つめる大人達に居たたまれなくなり、しかし引くわけにもいかない。
カンタは地団駄を踏み、その場で声を上げて泣き出した。