ラヴレス
泣きじゃくるカンタを抱き締める智純は、「母親」そのものだった。
その姿に、ずるりと傷口の皮が剥げるような思いをする。
「……カンタ」
キアランは、精一杯の想いを込めてカンタを呼んだ。
気付けば、智純とキアランの周りには子供達の垣根が出来ている。
カンタに触発され、じ、と涙を浮かべる小さく無垢な瞳が、キアランに一斉に向けられていた。
妙なプレッシャーを感じながらも、キアランは唇を閉じてカンタが顔を上げてくれるのを待つ。
母親達に捨てられたこの子達から、キアランは再び母親を奪おうとしている。
たった一人の、なにより大切な叔父上の為に―――。
「…カンタ、返事は?」
カンタに無視され、弱りきっていたキアランの代わりに智純がそう囁いた。
カンタの耳に流し込むような、小さな小さな声で。
「…なんだよぅ、」
ひく、と不機嫌そうにカンタはキアランを見た。
熟れたトマトのように充血した眼球が、じろ、とキアランを睨み付けている。
キアランは幼い子供に嫌われたというショックに揺らぎかけた想いを、しかししっかりとその目を見つめながら、もう一度、強く願った。