ラヴレス
『キアラン』
その深い愛に満ちた声で、自分の名前を呼んだ人。
それは穏やかで優しくて、なにより暗闇のなかに射した、ただ一筋の光のようだった。
なにもかもが手に入る世界で、けれど今、自分がなにを大事そうに握っているかなど解らない。
見えやしないのに、それを必死に確かめようと、握った拳を開いては閉じて、開いては閉じてを繰り返していた。
『キアラン、お前には、私がついているからね』
にこやかな笑みは、閉鎖された空間での慰めだった。
『愛している』
この人のためならなんだってできると、いつだって思ってばかり。
けれど幼い自分にはなにひとつ恩を返せやしない。
それでもやっと、全てを返せる時が来たのだと、僕はただ喜びに打ち震えていた。
例え誰かを不幸にしたって、構わない―――。