ラヴレス
「…病状次第、とは?」
キアランは沸き上がる罪悪に堪えきれず、智純の言葉を反芻した。
彼女なら、一目会ってすぐに帰ると言い出すと考えていたから。
―――病状次第では、滞在を長くしてもいい、と彼女は言っているようだった。
キアランの問い掛けに、智純は暫し視線を落とし、やがて鋭くキアランを睨み付ける。
「…あんたのおじさんには、聞きたいことがたくさんあるから」
それは詰問、だろうか。
或いは、罵詈雑言を浴びせるのか。
―――還らぬ母の為に、智純は自らを押しきってキアランに従っている。
それが解っいながら、キアランは知らぬふりをしてただひたすら「叔父上」に従う。
不可解なベクトルの先になにがあるのか。
まるで予想もつかなければ、想像すらしたくない。
―――まるでこれでは、迷路だ。
「…帰る」
智純は再びその言葉を吐き出した。
キアランはやはり先程と同じようにあぁ、と応え、備え付けのキッチンに置かれている冷蔵庫へと向かった。
「…土産に」
大きな紙箱だった。
金色の筆記体は、このホテルご自慢のパティシエが展開している洋菓子屋の名前。