ラヴレス
智純はその朝、随分と早く目を覚ました。
まだ外は重厚に暗く、朝日はその気配すら見せていない。
もぞもぞと隣で寝ていたカンタがみじろぐ。
智純は捲れている布団を直してやりながら、その短い頭を撫でた。
カンタだけではない。
智純の周りを、子供達がぐるりと取り囲んでいた。
北枕だけはしないように、と言いつけたせいで、ひっちゃかめっちゃかの並びになっている。
子供達は、昨夜から智純の傍を離れたがらなかった。
「…全く、」
たかがイギリスに飛ぶだけだ。
今生の別れではない。
キアランだって、「いつか帰る」とカンタと約束した。
母に縁ある人を訪ねて、旅行に行くのだと考えればいい。
それなのに、子供達は大袈裟だ、と智純は暗闇のなかで苦笑した。
(―――でも、)
それでも、智純には腑に落ちないものがあった。
或いは智純のその疑問を、子供達は敏感に感じ取っているのかもしれない。
イギリスに行き、キアランの叔父に会う。
それが彼の望みだと、キアランは言った。
愛した人の忘れ形見の私を一目、と。
そのままあちらに住み着くわけでもないのに、キアランの表情はそう物語っていない。