ラヴレス
「―――まだ見つからないのか?」
仕事の報告がない。
二ヶ月も先に部下を日本に送り、最重要の仕事を与えたというのに、まさか未だに成果が上がってないというのだろうか。
焦燥を抑え込み、嫌味なくアルマーニを着こなしている年若の男は、ゆっくりと脚を組み直した。
滞在中の県下で最も格式の高いホテルのスイートでは、季節外れの薔薇がそこかしこにに飾られ、塵ひとつない猫脚のテーブルには、サービスのアロマキャンドルが背比べでもしているかのように並べられている。
白を基調とした室内で、アルマーニの黒と側近の男性が品よく着こなしている灰色のスーツだけが浮き出ていた。
「…無茶を言わないでください。なにせ、日本の養護施設の所在児数は約三万とか。その中で、名前だけを頼りに一人を特定するのは難しいでしょう」
主人の不機嫌を納めようと、側近は紅茶を淹れながらそう答える。
敏腕な部下だ。
仕事をこなす努力はしているだろうが、なにぶん、仕事内容が無茶過ぎる。