ラヴレス
キアランはあくまで有名貴族の後継者であり、一般的な教養以外にも様々な教育、躾を施された。
勤勉で優秀だったキアランは大学をスキップしたし、それこそ周囲に居た放蕩貴族より自立が早かった。
教育は、世間一般の子供達が受領するが当然、という環境で育ってきたのだ。
そんな彼が、智純の環境までに気が回らないのは当然といえば当然なのだが――普段なら決してしない失態だった。
貴族出身のキアランとはいえ、世間に疎い馬鹿ではなかった。
なにより今の世の「貴族」など名ばかりで、家計などどこも火の車。
メディアに取り上げられている金持ち貴族など極一部に過ぎない。
そんな「貧乏貴族」から、世界でも屈指の「財団貴族」として成り上がったのはキアランの力である。
―――それなのに。
「…じいさん達が行かせなかったわけじゃないよ。私に行く気がなかっただけ」
微妙な空気に陥った車内に自分の回答が悪かったかと、智純は老夫婦を擁護した。