ラヴレス











「…本人の名前だけじゃない。養護施設の名前も解っていた筈だ」


主人も負けじと言い返すが、彼より一回り以上歳を食った側近の男はそれをものともしなかった。



「…ですから、「こころの家」、などという安易なネーミングの施設は、大中小舎制すべて含め、全国に四十ヶ所あるんですよ」

どこも似たような名前ばかりだし、それが一般在宅を利用したグループホームともなれば尚更。

部下の苦労を思い、側近の男は主人に聞こえないように溜め息を吐いた。


「早くしなければ、叔父上の容態が」

主人の焦燥も解らなくはない。

実の親より慕ってきた叔父の、たっての願いなのだ――しかも病床での。

早く見つけてやりたいのは山々だが、しかしだからと言って、そう簡単に見つかるわけもない。

こちらが得ている情報は、余りに少なすぎた。



「養護施設への支援とて叔父上が始めた事業だ。それほどまでに想いを傾けているというのに」

由緒正しい家に産まれるというのは、時に柵に苦しみ、豊かな人生を送る代わりに、思うようにいかないことも多々ある。


主人は、優しすぎる。

そして叔父上に甘過ぎた。








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