ラヴレス
「とりあえず、携帯電話を渡しておきます。飛行機のなかで落ち合いましょう。気を付けて」
ジンから預かった携帯電話をポケットに突っ込み、智純は早速と車から降りて空港へと向かった。
服装がメイクと比べると多少の違和感があるが、身長の高いキアランにイライラして高いヒールのブーツを履いていたことが功を成した。
インディゴブルーのスキニーで、ブーツをカツカツ言わせながら歩けば、どこにでもいる「ギャル」だ。
付け睫もバシバシ付けたので、くたびれた智純しか知らないマスコミに見破られるわけもない。
まさかお水時代の経験がこんなところで役に立つとは。
(母さんありがとう、感謝してる)
母親が毎日のように美しく変身していく姿を見ていたので、智純は自分のメイク術にはそれなりの自信があった――とは言っても、クラブで働くため、簡素な素顔を隠すために腕を磨いたと言っても過言ではないのだが。
しかしそんな悔しいこと、あの飛び抜けて美形なバカキアランには絶対に悟られたくない。
一先ずは、秘書のジンから感嘆の言葉を頂いただけでも良しとしよう。