ラヴレス
そんな智純の後ろ姿を見送りながら、キアランはジンがいつも以上ににやにやしていることに気付いた。
「なんだその顔」
言われて、ジンは緩めていた口元をおっと、と悪びれずに手で隠す。
目元がニヤニヤしているので、あまり意味がない。
「…いえ、面白い方だと思いまして」
ぷぷぷ、となにが可笑しかったのか、ジンはにやにやし続けている。
「…アナベルト家にお仕えして長いですが、あのように単純で破天荒で、キアランによく似た方は初めてです」
目尻は穏やかだが、どう考えても智純とキアランを馬鹿にしている。
キアランは仏頂面を浮かべ、主人を馬鹿にする無礼な秘書から顔を逸らした。
そんなキアランを眺めつつ、ジンはぽつりと呟いた。
「…それに、智純様と出会われてから、貴方は子供の頃のように表情豊かですし」
それは車内の暖房の音に掻き消されそうなほど小さな声だったが、キアランの耳にはしっかりと届いていた。
わざとか偶然か、不意に届いたジンの小言にキアランは聞こえないフリをする。
キアランがなにを思ったかは、想像するも容易くない。