ラヴレス
キアランが空港に現れると、待機していたマスコミ連中が押し寄せてきた。
帰国は公表しない筈だったのだが、こうなれば大きく計算が狂ってしまう。
智純の問題は自己解決してくれたとは言え、毎回毎回マスコミに取り囲まれるのも好きではない。
一般的な貴族相手なら、まずはこうならないだろうという扱いなのだ。
「アナベルト・シュナウザー家」の肩書きに加え、年若くして敏腕、ハリウッドスターも逃げ出すほどの容姿端麗ぶりに、「王子」好きの日本のマスコミは敏感だった。
キアランを撮せば、とりあえず女性の視聴率はとれるからだ。
しかしあまり近付き過ぎてキアランを不快にさせれば、国から制裁を与えられかねないので、必要以上には揉みくちゃにされない。
SPがバリケードを張る一定の距離を空けて、フラッシュや英語の質問が飛び交っている。
「どこに行ってもこれだ」
アメリカ、イタリア、フランス…各国のメディア達は、現代では珍しい有能な貴族当主を放ってはおかない。
「仕方ありません。さ、チフミ様がお待ちですよ」
にこやかな笑みをカメラに向けながらも、聞こえない程度の母国語で愚痴を言う主人にジンは苦笑した。