ラヴレス
「…あぁ、解っている。―――あ?」
ジンの言葉に素直に頷いたキアランだったが、視線の先になにかを認めて表情を固くした。
キアランの視線を辿るように、ジンもなんとはなしにそちらを見る。
「―――」
エスカレーターを上がった先。
そこには、言い争いをしている一組の男女が居た。
マスコミの声でよく聞こえないが、なにやら大声で討論しているらしい。
しかし問題はそこではない。
キアランとジンの視線は、果敢にも男性へと立ち向かっている女性に集中していた。
「…なにを、やってるんだ、あのバカは」
キアランはふるりと呆れた声を出した。
ジンはジンで、頭を抱えそうな勢いである。
人が行き交うフロアで、周りも気にせず大声を上げている女性――智純だ。