ラヴレス







「…君、」

そのままその場を去ろうとしたキアランは、セキュリティに対して未だわんわん喚いている男を呼んだ。

後ろに控えているジンに目配せし、男に札束を何枚か握らせる。



「ちょ、キア、」

それを見た智純が目を丸くしたが、SPのひとりに口を抑え込まれ声すら出せない。


「勝手に口を出して申し訳ない。それで新しいゲーム機を買うといい」

言われた男はかっと顔を赤くした。

施しが気にくわなかったのか、キアランの言葉に自分を恥じたのか、或いはキアランの容姿にときめいたのか。

結果的に収まったその場に、マスコミはじめ野次馬達はわっと興奮したように騒ぎ始めた。

キアランの株がまたひとつ上がったのである。



「…雨降って地固まる、とはこういう時に使うんだな」

キアランは至極満足げで、勝ち誇った笑顔を智純に向けた。

「ひらへーほ」

未だSPに口を塞がれている智純の反撃は痛くも痒くもない。

不満そうな智純を引き連れ、そうしてキアランはまんまとその場を後にしたのだった。








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