ラヴレス











「全く、無茶しましたね」

機内のビジネスクラスどころかファーストクラスなど見たこともなかった智純は、ぽかりと口を開けたまま間抜けな顔でジンに怪我の手当をされていた。

広々とした室内はとても飛行機の中とは思えない。
ゆったりと座れる大型のチェアの周りには広い空間があり、足を伸ばすのも背凭れを水平にするにも支障はない。



「…虫が入るぞ」

ぐるぐると視線を動かしながらも惚けた口を閉じない智純に、キアランは呆れている。

手当を終えた後も、智純はぶんぶん首を振る勢いで室内を見渡していた。

離陸のアナウンスが流れると、さっとリクライニングソファに座り、アナウンス通りにベルトを締める。

そしてじ、と小さな窓の外に視線を注いでいる。

動き回る整備士や空、遠くの稜線を眺めながら、エンジン音と共に襲い来る浮遊感にぎゅ、と拳を握った。

その子供のような様子にニヤニヤするジンと、そんな彼をロリコンと罵るキアラン。



かくしてイビツな一行の十二時間が幕を開けた。









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